ここでは、弁理士とはどういう職業か、また、弁理士試験の概要と独立開業にあたっての留意点などを解説しています。
弁理士とは?
弁理士は、特許権・実用新案権・意匠権・商標権などの知的財産に関する専門家です。
特許、実用新案、意匠、商標、国際出願などの出願代理、鑑定などは弁理士の独占業務です。
知的財産権を取得したいクライアントの代理として依頼内容について従来技術や先行出願を調査し、権利が取得できるか否かを判断します。
出願することが決定すると、願書に加え、発明の内容を説明した明細書やデザインを現した意匠図面などの必要な書類を作成し、特許庁へ出願手続きを行います。
また、審査段階における特許庁の審査官とやりとりに対応したり、特許技術や商標を侵害された場合の助言や訴訟代理などを行います。
裁判所や大学、研究所、企業等への就職・転職にも有利ですが、豊富な知識を活用して好不況に関係なく独立することもできます。
弁理士 | 評価 |
---|---|
受験資格 | なし |
就職・転職に役立つか | |
定年後の再就職に役立つか | |
独立に役立つか | |
難易度 | 非常に難しい |
弁理士になるには?
弁理士になるためには、毎年1回行われる弁理士試験に合格し、実務修習を修了後、弁理士登録をする必要があります。
弁理士の実務修習は、例年12月上旬から3月末の間に実施されます。
弁護士となる資格を有する者や特許庁において審判官又は審査官として審判又は審査の事務に従事した期間が通算して7年以上になる者も実務修習を修了後、弁理士になることができます。
但し、次に該当する者は弁理士となる資格を有しません。
- 禁固刑や罰金刑などの刑事処分を受けた者
- 公務員で懲戒免職処分を受けた者
- 弁理士法に定める業務上の処分を受けた者
- 懲戒処分を受けた弁護士・税理士・公認会計士
- 制限行為能力者など
弁理士試験の概要
弁理士試験は、
- 短答式試験
- 論文式試験(必須科目)
- 論文式試験(選択科目)
- 口述試験
の4つの試験から構成されます。
短答式試験の合格者だけが論文式試験(必須と選択科目)の受験資格を得ることができ、論文式試験に合格すると口述試験に進むことができます。
受験資格
受験資格は必要ありません。
年齢・性別・学歴・国籍に関係なく誰でも受験できます。
試験日時・試験地
試験日時
試験は、年1回。
例年3月上旬~4月上旬に願書交付・受付がなされ、下記の要領で試験が実施されます。
試験 | 試験日 | 試験会場 | 合格発表 |
---|---|---|---|
短答式試験 | 5月中旬~下旬 | 東京、大阪、仙台、名古屋、福岡 | 6月上旬頃 |
論文式試験 の必須科目 |
6月下旬~7月上旬 | 東京、大阪 | 9月中旬頃 |
論文式試験 の選択科目 |
7月中旬~下旬 | ||
口述試験 | 10月中旬~下旬 | 東京 | 10月下旬~ 11月上旬頃 |
試験の方法と内容
短答式試験
全7科目から60題出題。5肢択一のマークシート方式、試験時間(3.5時間)
- 特許法・実用新案法:20問
- 意匠法:10問
- 商標法:10問
- 工業所有権に関する条約:10問
- 著作権法・不正競争防止法:10問
短答式試験の免除制度
以下の対象者は、下記の条件で短答式試験が免除されます。
対象者 | 免除 |
---|---|
短答式試験合格者 | 短答式試験の合格発表日から2年間、短答式試験のすべての試験科目が免除 |
工業所有権に関する科目の単位を修得し大学院を修了した方 | 大学院の課程修了日から2年間、工業所有権に関する法令・条約の試験科目が免除 |
特許庁において審判又は審査の事務に5年以上従事した方 | 工業所有権に関する法令・条約の試験科目が免除 |
論文式試験
論文式試験を受験するためには、その年の短答式試験に合格しているか、短答式試験免除資格を有している必要があります。
論文式試験は、必須科目と選択科目に分けて行われます。
試験科目 | |
---|---|
必須科目 | 特許法・実用新案法:2時間 意匠法、商標法:各1.5 時間 |
選択科目 | 理工Ⅰ(機械・応用力学):材料力学、流体力学、熱力学、土質工学 理工Ⅱ(数学・物理):基礎物理学、電磁気学、回路理論 理工Ⅲ(化学):物理化学、有機化学、無機化学 理工Ⅳ(生物):生物学一般、生物化学 理工Ⅴ(情報):情報理論、計算機工学 法律(弁理士の業務に関する法律):民法総則、物権、債権が範囲 の6科目のうち、受験者があらかじめ選択する1科目:1.5 時間 |
論述式試験の免除制度
論文式試験の選択科目合格者は、申請により永久に免除となります。
また、修士・博士・専門職学位に基づく選択科目免除認定を受けた方や、技術士、一級建築士、情報処理技術者、電気主任技術者、司法書士など一定の資格保有者も申請により論文式試験の選択科目が免除対象となります。
口述試験
口述試験を受験するためには、その年の論文式試験に合格しているか、または論文式試験の免除資格を有している必要があります。
工業所有権(特許・実用新案、意匠、商標)に関する法令について、各科目ごとに試験官による10分程度の口頭試問が行われます。
受験手数料(令和4年実績)
12,000円
弁理士試験の難易度
合格基準・合格率
合格基準
試験 | 合格基準 |
---|---|
短答式試験 | 満点に対して65%の得点を基準として、論文式筆記試験及び口述試験を適正に行う視点から工業所有権審議会が相当と認めた得点以上 |
論述式試験 (必須科目) |
標準偏差による調整後の各科目の得点の平均が、54点を基準として口述試験を適正に行う視点から工業所有権審議会が相当と認めた得点以上であること。ただし、47点未満の得点の科目が一つもないこと |
論述式試験 (選択科目) |
科目の得点が満点の60%以上であること |
口述試験 | 採点基準をA、B、Cのゾーン方式とし、合格基準はC評価が2つ以上ないこと |
合格率
試験別に見ると年によってばらつきがありますが、短答式が15%程度、論文式が25%程度、口述試験が95%程度です。
試験の免除制度等で、弁理士試験の最終的な合格率は例年6~9%前後です。
令和4度度は、受験者数3,177人に対して合格者数は193人。合格率は6.1%でした。
弁理士試験の難易度と合格までの時間の目安
難易度: 非常に難しい
合格までの学習時間の目安:3000時間
弁理士として独立開業するにあたっての留意点
弁理士は、転職や独立におすすめの資格です。しかし、難関資格を取得したからといってすぐに独立できる訳ではありません。
非常に高度なスキルが求められるため、一通りの業務をこなせるようになるには少なくとも3年はかかるといわれています。
このため、まずは特許事務所や企業の知財部門で実務経験を積み、スキルを磨くと同時にコネクションを構築していくことが必要になります。
また、顧客を引き継いで独立した後も新規顧客を獲得するためには、営業力が問われます。
士業と言われる資格は、独立のチャンスを掴む催しものもいくつかありますのでそういう機会を積極的に活用するのが有効です。
例えば、日本弁理士会が行っている知的財産権に関する無料相談会の相談員をすることや、商工会議所が主催する知的財産権に関する講習会などで講義をする、また、他の士業との交流会などに積極的に参加することなどがそうです。
さらに、今や士業と言えどもインターネットでの集客を意識しなければ生き残っていけない時代ですので、ホームページやSNSなどでの集客も意識する必要があります。
定年後に弁理士として独立する場合
定年後に弁理士として独立する場合は、それまで特許事務所や企業の特許関連の部署の仕事をしていた場合は別ですが、他の士業と同様、55歳くらいまでに資格を取得し、弁理士(特許)事務所で2年~3年の実務経験を積む必要があります。
このように、受験勉強を始めてから独立開業までには、他の士業同様、5年10年といった時間と営業力が必要になりますが、これらを覚悟で計画的に取り組めば、定年後・老後でも弁理士として独立し、安定して稼ぐことが可能となります。
5年なんて時間はあっと言う間に過ぎます。考えている間に行動に移すことが重要です。