ここでは、不動産鑑定士とはどういう職業か、不動産鑑定士は独立開業におすすめか?また、試験の難易度と合格率などを解説しています。
不動産鑑定士とは?
不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価に関する法律に基づき制定された国家資格です。弁護士、公認会計士と並んで日本の三大国家資格と評されるステイタスの高い資格です。
国や都道府県からの依頼で地価公示や都道府県地価調査、相続税標準地の鑑定評価・固定資産税標準宅地の鑑定評価などを行うほか、売買や家賃のための評価、裁判上の評価、会社合併時の資産評価なども行い、さらには、個人や企業を対象に不動産の活用方法や税務対策なども考慮したコンサルティング業務なども行います。
不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務です。
経済や政策面の影響などを考慮しながら不動産の利用価値や評価を行うため、高度で幅広い知識と経験が必要になります。
不動産鑑定事務所への就職がメインですが、不動産系企業のみならず、信託銀行、生保・損保など不動産に関わるあらゆる業種で高い需要があるため就職や転職にも非常に有利な資格です。
不動産鑑定士 | 評価 |
---|---|
受験資格 | なし |
就職・転職に役立つか | |
定年後の再就職に役立つか | |
独立に役立つか | |
難易度 | 非常に難しい |
不動産鑑定士になるには?
不動産鑑定士になるには、不動産鑑定士試験に合格した後、実務修習を受ける必要があり、その修了考査で修了確認されることで、不動産鑑定士として登録し、活動することが可能です。
短答式試験 ⇒ 論文式試験 ⇒ 実務修習(修了考査) ⇒ 不動産鑑定士登録
実務修習(修了考査)とは
実務修習は、
- 不動産の鑑定評価に関する講義
- 基本演習
- 実地演習
などに分かれて実施され、1年コース、2年コースから選択することが可能です。
そして、実務修習の修了考査が実施されます。
修了考査は、90%ほどが合格します。
不動産鑑定士試験の概要
不動産鑑定士の試験は、短答式試験と論文式試験が実施されます。
論文式試験は、短答式試験の合格者のみ受験可能です。
受験資格
年齢、学歴、国籍、実務経験等に関係なく誰でも受験できます。
かつては大卒などの受験資格が必要でしたが受験者数の減少を受けて2006年から撤廃されました。現在は年齢や学歴に関係なく誰でも受験することができます。
試験日時
短答式試験
例年、2月中旬~3月上旬に願書を配布し、願書受付
例年、5月の中旬(日曜日1日間)に試験実施
北海道・宮城県・東京都・新潟県・愛知県・大阪府・広島県・香川県・福岡県・沖縄県で実施
論文式試験
短答式試験の合格者のみ受験可能
例年、7月下旬~8月上旬(日曜日を含む土・日・月曜日の連続する3日間)
東京都・大阪府・福岡県で実施
試験の方法と内容
短答式試験
試験科目 | 試験時間 | 出題数 | 配点 |
---|---|---|---|
不動産に関する行政法規 | 午前120分 | 40問 | 100点 |
不動産の鑑定評価に関する理論 | 午後120分 | 40問 | 100点 |
出題形式は、択一式(マークシート方式)
論文式試験
試験科目 | 試験時間 | 出題数 | 配点 |
---|---|---|---|
民法 | 1日目午前120分 | 2問 | 100点 |
経済学 | 1日目午後120分 | 2問 | 100点 |
会計学 | 2日目午前120分 | 2問 | 100点 |
不動産の鑑定評価 に関する理論 |
2日目午後120分 3日目午前120分 3日目午後120分(演習問題) |
2問 2問 1問 |
100点 100点 100点 |
出題形式は、論文問題と演習問題。
尚、短答式の合格者は2年間は短答式が免除となります。
受験手数料
12,800円(電子申請の場合)
13,000円(書面申請の場合)
不動産鑑定士試験の難易度と合格率
合格基準・合格率
合格基準
短答式試験は、総合点でおおむね7割を基準に土地鑑定委員会が相当と認めた得点。
但し、各試験科目ごとに一定の得点が必要です。
論文式試験は、総合点でおおむね6割を基準に土地鑑定委員会が相当と認めた得点。
但し、各試験科目ごとに一定の得点が必要です。
合格率
令和3年の短答式試験の合格率は36.3%、論文式試験の合格率は16.7%でした。
受験者数に対する合格者は5%前後ということになります。
難易度と合格までの時間の目安
難易度: 非常に難しい
合格までの学習時間の目安:2000時間
不動産鑑定士は、司法書士や税理士と並んで最難関の国家資格です。
短答式はともかく、論文式は独学ではやや困難です。
予備校や通信教育等を活用するのが効率的です。
講座は、難関試験の名門であるLECの不動産鑑定士試験講座がおすすめです。
不動産鑑定士は独立開業におすすめの資格か
不動産の鑑定業務を行うには、国土交通省または都道府県にて不動産鑑定業者登録を行い、事務所毎に1名以上の不動産鑑定士を置かなければならないと定められています。
また、公共機関からの公的評価の依頼が継続的に見込めるため独立しやすい資格です。
実際、不動産鑑定士の多くが独立して活躍しています。
不動産鑑定士の独立開業の現状
不動産鑑定士が独立開業におすすめと言われる理由の一つが、地価公示等の公的評価があるためだと言われています。
しかし、これらの仕事は既存の不動産鑑定事務所によってほぼ抑えられており、新規独立者にそういった仕事は回ってきにくいのが実情です。
また、限られた不動産を有する法人も既存の不動産鑑定士と懇意にしているため、なかなか新米の不動産鑑定士には仕事が舞い込んでこないというのが現状です。
不動産鑑定士の多くが独立して活躍しているのは事実ですが、新規参入者が独立開業して成功するには、競争に勝ち抜き、民間の仕事を獲得していくことが求められます。
そのためには、
- 仕事のネットワークを構築する
- ポジショニングを明確にする
ことが必要かつ効果的です。
仕事のネットワークを構築する
このように、いくら難関資格を突破した不動産鑑定士と言えども、待っているだけでは仕事は舞い込んできませんので、営業活動をして仕事を獲得する必要があります。
異業種交流会などに積極的に参加するなどしてネットワークを構築するなど、自ら積極的に営業活動をしてまわることが成功のカギです。
税理士や宅建士、弁護士など、他の士業を経由して仕事が取れるケースも少なくありません。
ポジショニングを明確にする
他の士業にも言えることですが、顧客にあなたを選ぶ理由を明確に提示する必要があります。
他の不動産鑑定士と差別化を図るために得意分野、専門分野を持ち、独自の場所を見つけることが独立して成功するためには重要で効果的です。
自分の価値を売り込む営業を心がけることが顧客への獲得に繋がります。
また、不動産鑑定士に関連する資格も多いところから宅建士などとのWで資格を取得すると専門分野の幅も広がり、より成功しやすくなります。
定年後に不動産鑑定士として独立開業が可能か
定年後に不動産鑑定士の資格を取得して独立開業が可能か、という問題です。
不動産鑑定士試験の合格者は年代別にみると30代や40代が中心です。
通常は、30代くらいまでに資格を取得し、鑑定事務所で一定の経験を積み、のれん分け的に顧客を分けてもらって独立します。
例えば未経験の人が50代から資格取得を目指し、合格後に不動産鑑定士事務所で働くというのは不可能ではありませんが、あまり現実的ではありません。
しかし、不動産鑑定士になるためには、試験合格後、実務修習(研修)を受ける必要がありますので、これを実務経験と捉え、すぐに独立することも可能です。
但し、上でも述べたように、公共機関からの公的評価の依頼も、不動産を有する法人・個人からの仕事も先輩の不動産鑑定士に抑えられているいるのが実情。
従って、定年後に不動産鑑定士の資格を取得して成功するということは難しいと言えます。
しかし、仕事のネットワークを構築し、例えば、相続時の不動産鑑定評価専門等、相続に特化したサービスなどポジショニングを明確にすることで、年収200万円程度の緩い独立開業で定年後に年金と合わせて生活していく分にはおすすめの資格と言えます。