ここでは、建築設備士とはどういう職業か、建築設備士試験の概要や難易度・合格率などを解説しています。
建築設備士とは?
建築設備士とは、空調、給排水、電気など、建築の設備について全般的な知識および技能を持ち、高度で複雑な建築設備の設計や工事監理について建築士に対してアドバイスができることを証明できる国家資格です。
但し、建築設備士は、名称独占資格ですが業務独占資格ではありません。
従って、建物の設計には必ずしも建築設備士が必要ということはありません。
しかし、平成27年には、建築士法改正により、「延べ面積が2000平方メートルを越える建築物の建築設備にかかわる設計、工事監理の際には建築設備士のアドバイスを受けるように努めなければならない」とされました。
また、建設会社や設計事務所、電気・空調の設備メーカー、不動産会社やビル管理会社における設備設計や管理監督として多くの需要があり、今後も省エネ化や複雑な建築設備の登場により、建築設備士の高度な知識が求められることが予想されます。
そういう意味では、建築設備士は将来性のある資格といえます。
また、建築設備士は、建築士へのステップアップもしやすい資格です。
建築設備士の資格を持っていると、
- 実務経験や学歴を問わず2級建築士、木造建築士の受験資格が得られる
- 建築設備士として4年以上の実務経験があれば、1級建築士の受験資格が得られる
- 建築設備士を取得した後1級建築士の資格を取得し、設備設計1級建築士を目指す場合には、建築設備士としての勤務年数を実務経験の中に含めることができる
といったような特典があります。
建築設備士 | 評価 |
---|---|
受験資格 | あり |
就職・転職に役立つか | |
定年後の再就職に役立つか | |
独立に役立つか | |
難易度 | やや難しい |
建築設備士になるには?
建築設備士になるには、公益財団法人建築技術教育普及センターが実施している建築設備士試験に合格する必要があります。
建築設備士試験の概要
受験資格
建築設備士試験は、
- 学歴を有する者(大学、短期大学、高等学校、専修学校等の正規の建築、機械又は電気に関する課程を修めて卒業した者)
- 1級建築士、1級電気工事施工管理技士、1級管工事施工管理技士、空気調和・衛生工学会設備士、電気主任技術者(第1種、第2種、第3種)の有資格者
- 建築設備に関する実務経験を有する者
の条件を満たした上で、以下の実務経験年数があれば受験資格が得られます。
<参考:公益財団法人建築技術教育普及センターより引用>
実務経験として認められる業務は、
- 設計事務所、設備工事会社、建設会社、維持管理会社等での建築設備の設計・工事監理(その補助を含む)、施工管理、積算、 維持管理(保全、改修を伴うものに限る)の業務
- 官公庁での建築設備の行政、営繕業務
- 大学、工業高校等での建築設備の教育
- 大学院、研究所等での建築設備の研究(研究テーマの明示が必要とします)
- 設備機器製造会社等での建築設備システムの設計業務
などです。一方で、
- 建築物の設計・工事監理、施工管理等を行っていたが、このうち建築設備に関する業務に直接携わっていなかった場合
- 単なる作業員としての建築設備に関する業務を行っていた場合
などは、実務経験として認められません。
試験日時
建築設備士の国家試験は、例年、2月の下旬から3月の間に受験申込を受け付け、6月の日曜日に第一次試験、8月の日曜日に第二次試験が実施されます。
受験申込は原則としてインターネットによる受付のみです。
試験の免除
第一次試験に合格した場合、次の年から続く4回のうち任意の2回(第一次試験に合格した年に行われる第二次試験を欠席した場合は3回)について、第一次試験が免除されます。
第一次試験合格の有効期間は5年間です。
試験の方法と内容
試験は、
- 第一次試験(学科)と
- 第二次試験(設計製図)
に分けて実施されます。
第二次試験は、第一次試験の合格者のみ受験できます。
第一次試験(学科)
9時45分~17時10分(途中1時間の休憩と午前と午後に注意事項等の説明あり)
四肢択一式 105問
- 建築一般知識:27問(建築計画、環境工学、構造力学、建築一般構造、建築材料及び建築施工)
- 建築法規:18問(建築士法、建築基準法その他の関係法規)
- 建築設備:60問(建築設備設計計画及び建築設備施工)
第二次試験 (設計製図)
10時45分~16時30分(注意事項等の説明後、休憩を挟まず実施)
記述及び製図 16問
- 建築設備基本計画必須問題:11問(建築設備に係る基本計画の作成)
- 建築設備基本設計製図:5問(空調・換気設備、給排水衛生設備又は電気設備のうち、受験者の選択する一つの建築設備に係る設計製図の作成)
共通 3問、選択 2問中1問
受験手数料
36,300円
試験地
試験地:札幌市、仙台市、東京都、名古屋市、大阪府、広島市、福岡市及び沖縄県
沖縄県で第一次試験を受けた受験者については、第二次試験は原則として福岡市が受験地となります。
建築設備士試験の難易度
合格基準・合格率
合格基準
第一次試験の合格基準点は、原則として、
- 建築一般知識(27問)中、13点
- 建築法規(18問)中、9点
- 建築設備(60問)中、30点
- 総得点(105問)中、70点
としていますが、試験問題の難易度を勘案して、総得点の合格基準点の補正が行われる場合があります。
第二次試験の配点は、採点結果を上位から評価A、評価B、評価C、評価Dの4段階区分とし、「評価A」を合格としています。
合格率
例年、第一次試験が30%前後、第二次試験が50%前後となっています。
令和4年度は、
第一次試験は2,813人が受験し、882人が合格(合格率31.4%)。
第二次試験は1,111人が受験し、516人が合格(合格率46.4%)。
総合合格率は、16.2%でした。
難易度と合格までの時間の目安
難易度: やや難しい
合格までの学習時間の目安:500時間
建築設備士は転職や独立に有利か
建築設備は年々複雑化・高度化しており、その傾向は今後も強まっていくと考えられます。
例えば、地球温暖化防止の観点から太陽光発電を利用したエネルギーシステムを取り入れた住宅が注目されています。
DX化も進み、ビル全体の空調を一括で管理するシステムも導入されています。
また、高層マンションやオフィスビルでは建築構造の複雑化が進んでいます。
このようにこれまでと異なる構造の建造物を作る際や複雑な建築設備を設計する際も建築設備士へのニーズは高まりますし、建物の改修時も、より強固な設備にする際に建築設備士へのニーズは高まります。
ですので、今後、建築設備士への需要は増加する見込みとなっており、建築設備士を取得すると設備設計職への就職や転職に非常に有利になります。
実際、建築設備士の資格を持っていることが条件になっている求人も多く見られます。
建築設備士は独立して働くことも可能ですが、建築設備士の資格を持っていると、1級建築士試験の受験資格を得ることができますのでこれらの資格を併せ持つことで独立後も安定します。