ここでは、システム監査技術者試験の概要やその難易度、また、システム監査技術者として独立することは可能かなどをまとめています。
システム監査技術者試験とは?
システム監査技術者は、高度IT人材として確立した専門分野をもち、監査対象から独立した立場で、情報システムや組込みシステムを総合的に点検・評価・検証して、監査報告の利用者に情報システムのガバナンス、マネジメント、コントロールの適切性などに対する保証を与えたり、又は改善のための助言を行うシステム監査のエキスパートです。
具体的には、社内システムについて障害がおこるリスクの程度や企業の経営にシステムが有効利用されているか、外部からの攻撃に耐えられるか、などの観点からシステムを評価し、適切であることを保証したり、改善のためのアドバイスを行ったりします。
ITの知識だけでなく経営や法務に関する高度な知識が求められます。
IT化が進み、人々の生活が便利で豊かになっていく一方で、情報システムの脆弱性を原因としたトラブルは増えてきています。
そういった事態を回避し、情報システムの安全性を高めていくことを目的としたシステム監査技術者への需要は年々高まっています。
今後のIT技術の進歩により、さらに需要が増す人材だと予想されます。
システム監査技術者試験(AU)は、経済産業省認定の国家資格である情報処理技術者試験の一つで、情報システムや組込みシステムを独立した立場から監査し、総合的に評価したり、改善のための助言を行うことができる人材かどうかを問う試験です。
合格者の平均年齢は40歳を超えており、合格者の平均年齢が高いという特徴があります。
システム監査技術者試験 | 評価 |
---|---|
受験資格 | なし |
就職・転職に役立つか | |
定年後の再就職に役立つか | |
独立に役立つか | |
難易度 | かなり難しい |
システム監査技術者試験の概要
受験資格
受験資格は必要ありません。
年齢、学歴、国籍、性別、実務経験等に関係なく誰でも受験できます。
試験日時
試験日時
システム監査技術者試験は、年1回、秋に実施されます(平成31年度まで春期実施)。
7月中旬から8月中旬にかけて申し込みを受け付け、10月の第3日曜日に試験が実施されます。
試験免除制度
システム監査技術者試験の午前Ⅰ試験については、次の①~③のいずれかを満たせば、その後2年間、受験申込み時に申請することによって受験を免除されます。
- 応用情報技術者試験に合格する
- いずれかの高度試験又は情報処理安全確保支援士試験に合格する
- いずれかの高度試験又は情報処理安全確保支援士試験の午前Ⅰ試験で基準点以上の成績を得る
例えば、情報処理安全確保支援士試験の午前Ⅰ試験で基準点以上の成績をとった者は、合格しなくても、その後、2年間、受験申込み時に申請することによって、システム監査技術者試験の午前Ⅰ試験が免除され、午前Ⅱ試験から受験することが可能です。
試験の方法と内容
試験は、午前Ⅰ・Ⅱと午後Ⅰ・Ⅱに分かれて下記の要領で実施されます。
試験の方法 | 午前Ⅰ | 午前Ⅱ | 午後Ⅰ | 午後Ⅱ |
---|---|---|---|---|
試験時間 | 9:30~10:20 (50分) |
10:50~11:30 (40分) |
12:30~14:00 (90分) |
14:30~16:30 (120分) |
出題形式 | 多肢選択式 (四肢択一) |
記述式 | 論述式 | |
出題数 解答数 |
出題数:30問 解答数:30問 (高度試験共通) |
出題数:25問 解答数:25問 |
出題数:3問 解答数:2問 |
出題数:2問 解答数:1問 |
午前Ⅰの試験
高度試験に共通して出される問題です。
テクノロジ系、マネジメント系、ストラテジ系から30問
※四肢択一問題30問×3.4点で合計 100点
午前Ⅱの試験
テクノロジ系、マネジメント系、ストラテジ系から25問
※四肢択一問題25問×4点で合計 100点
- データベース
- ネットワーク
- セキュリティ
- システム開発技術
- サービスマネジメント
- システム監査
- 経営戦略マネジメント
- 企業活動
- 法務
の9分野から出題
特に、セキュリティとシステム監査、法務について、高度な問題が出題されます。
午後Ⅰ・Ⅱの試験
出題範囲は次の通りです。
- 情報システム・組込みシステム・通信ネットワークに関すること
- システム監査の実践に関すること
- システム監査人の行為規範に関すること
- システム監査関連法規に関すること
午後Ⅰは、上記の範囲から3問出題され、2問を選択して解答します。
50点×2問で合計100点
午後Ⅱは、上記の範囲から長文問題が2問出題され、うち1問を選択して解答(課題について実務体験をもとに概ね2000~3000文字程度で論述)します。
A、B、C、Dの4段階で評価され、Aのみ合格となります。
受験手数料
7,500円
システム監査技術者試験合格者の特典
試験の免除
システム監査技術者試験の合格又は午前Ⅰに基準点以上を得れば、その後2年間、他の高度情報処理技術者試験及び情報処理安全確保支援士試験の午前Ⅰの科目免除が受けられます。
科目の免除
また、システム監査技術者試験の合格者は、
- 弁理士試験の科目免除(理工V・情報)
- 中小企業診断士試験の科目免除(経営情報システム)
- 技術士試験の科目免除(情報工学部門)
- ITコーディネータ(ITC)試験の科目免除
などの科目免除があります。
任用資格
任用資格とは、特定の職業ないし職位に任用されるための資格のことです。
システム監査技術者試験の合格者は以下の任用資格が与えられます。
- 技術陸曹・海曹・空曹及び予備自衛官補(技能公募)の任用資格
- 警視庁特別捜査官の4級職(警部補)のコンピュータ犯罪捜査官の任用資格
- 公認システム監査人補の申請資格
さらに、システム監査技術者試験の合格者は特定非営利活動法人日本システム監査人協会(SAAJ)に登録申請のうえ、2年以上のシステム監査の実務経験を積むことで公認システム監査人(CSA)に認定されます。
システム監査技術者試験の難易度
合格基準
午前Ⅰ・Ⅱ、午後Ⅰともに100点満点中60点以上が基準点。
論述式の午後Ⅱは、
- 設問で要求した項目の充足度
- 内容の妥当性
- 論理の一貫性
- 見識に基づく主張
で評価され、A、B、C、Dのランクで採点されます。
そして、評価ランクがA(合格水準にある)で合格となります(評価ランクA以外の場合は不合格)。
評価ランク | 内容 | 合否 |
---|---|---|
A | 合格水準にある | 合格 |
B | 合格水準まであと一歩である | 不合格 |
C | 内容が不十分である 問題文の趣旨から逸脱している |
|
D | 内容が著しく不十分である 問題文の趣旨から著しく逸脱している |
また、システム監査技術者試験には以下の足切りがあります。
- 午前Ⅰ試験の得点が基準点に達しない場合は午前Ⅱと午後の試験の採点を行わずに不合格
- 午前Ⅱ試験の得点が基準点に達しない場合は午後Ⅰ・午後Ⅱ試験の採点を行わずに不合格
- 午後Ⅰ試験の得点が基準点に達しない場合は午後Ⅱ試験の採点を行わずに不合格
試験結果に問題の難易差が認められた場合には,基準点の変更が行われることがあります。
合格率
システム監査技術者試験の合格率は例年15%前後です。
令和4年度は、1,972人が受験して合格者は313人。合格率は15.9%でした。
難易度
システム監査技術者試験のレベルは他の高度情報処理技術者試験と同じスキルレベル4に相当しますが、その中でも、システム監査技術者は、ITストラテジスト試験と並んでIT系国家資格の最難関の試験とされています。
IT業界に身を置く人以外には、あまり知られてはいませんが、その難易度は税理士や不動産鑑定士などに匹敵すると言われています。
合格率は15%前後とさほど低くはありませんが、これは受験者のレベルが高いためです。
応用情報技術者やその他の高度情報処理試験の合格者が受験しますので、言わば、合格率においては2次試験的な意味合いを持つ試験と考えていいでしょう。
午前の問題を免除された受験者(午前の問題が合格レベルに達した者)が多い中での合格率ですので、かなり難易度の高い試験と言えます。
難易度: かなり難しい
合格までの学習時間の目安:1500時間
尚、合格までの学習時間の目安は、知識ゼロから合格を目指す場合です。経験やその他保有資格により目安より短期間で合格することが可能です。
システム監査技術者として転職や独立をすることは可能か
システム監査技術者試験の歴史は古く、最初に試験が開催されたのは1986年です。
当時は「情報処理システム監査技術者試験」という名称で、受験資格に27歳以上という年齢制限がありましたが、1994年の制度改正により試験の名称が「システム監査技術者試験」と改称され、2001年には、年齢制限も撤廃されました。
このように35年ほど前から名称を殆ど変えずに実施されている情報処理技術者試験は、実はシステム監査技術者試験だけです。
それだけ、システム監査技術者は普遍的な価値のある資格だと言うことができます。
転職や定年後の就職では厚遇で迎えられる可能性あり
システム監査技術者は、情報システムの高度な知識と技術を用いて、情報システムのリスクや信頼性を分析・評価できる人材です。
IT関連の会社をはじめ、企業内の監査部門でのシステム監査業務、外部から企業のシステムをチェックする監査法人・コンサルティング会社などに需要がありますので、これらの会社への転職や再就職には適した資格です。
実際、高度な人材が不足しているIT業界において、転職の際は厚い待遇で迎えられますし、経験が伴っていれば、定年後の再雇用や再就職でも厚遇で迎えられることが期待できます。
例えば、システム監査技術者がIT企業から重宝されている一つの証として資格手当があります。
多くのIT企業が情報処理技術者試験の合格者に一時金や資格手当を出していますが、その中で最も高額の一時金や資格手当が出されているのがシステム監査技術者とITストラテジストです。
特にシステム監査技術者には年間100万円ほどの資格手当を出す企業もあります。
システム監査技術者はそれだけのステイタスがあり、業界では一目置かれています。
あらゆる組織がITを活用しており、そのシステムも今後、増々高度化していくため活躍の場が広がっていくことが予想されます。
転職や再就職にも間違いなく有利になり、年収アップも期待できます。
システム監査技術者以外の転職や定年後の再就職に役立つ資格については、下の記事でまとめていますので参考にして下さい。
システム監査技術者として独立する場合
システム監査として独立となると、個人で仕事を受注するまでが大変だと言われています。
この資格を持って独立している人の多くは、公認会計士や中小企業診断士などの資格を併せ持ち、システム監査技術者の資格を仕事の幅を広げるために活用しています。
一方で、システム監査としてではなく、SEの上流工程を請け負うフリーランスとして独立する場合は、需要は少なくありません。
近年は、技術者向けの仕事斡旋サイトなども充実しており、募集も多いため、技術者として比較的簡単に独立が可能です。
経験が必要ですが、資格のステイタスも高いためこういった仕事斡旋サイトを活用することで、高収入でスポット契約を結ぶことも可能です。
フリーランスとしての実績を積み、信頼を得ながら、人を増やしていき、徐々に会社を大きくしていくというのが、独立して成功する道だと考えます。
システム監査技術者以外の独立に役立つ資格については、下の記事でまとめていますので参考にして下さい。