年金の「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」はどっちがお得か?メリットとデメリットは?

要約

ここでは、年金の「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」はどっちがお得か?また、それぞれのメリットとデメリットはどういうものがあるか?について、2022年の年金制度の改正を踏まえ具体的にシミュレーションをしながら解説しています。

繰り上げ受給と繰り下げ受給

自営業の方や個人事業主などの第1号被保険者や、被扶養配偶者である第3号被保険者が受け取る公的年金には、

  • 国民年金の老齢基礎年金

が、そして、会社員や公務員などの第2号被保険者が受け取る公的年金には、

  • 国民年金の老齢基礎年金
  • 厚生年金の老齢厚生年金

があります。

そして、年金支給開始年齢は、以前は、老齢基礎年金は65歳から、老齢厚生年金は60歳からでしたが、老齢厚生年金の支給年齢は段階的に引き上げられ、

  • 男性は1961年4月2日生まれ以降の方
  • 女性は1966年4月2日生まれ以降の方

は、65歳からの支給となりました。

従って、上記以降に生まれた方の年金受給開始年齢はどちらの年金も原則65歳となります。

但し、年金は本人の希望で受給開始年齢を早めたり遅らせたりできる「繰り上げ受給・繰り下げ受給制度」があります。そして、

  • 年金の受給開始時期を早める受給の仕方を「繰り上げ受給
  • 年金の受給開始時期を遅らせる受給の仕方を「繰り下げ受給

と言っています。

よく、逆に解釈している人がいますが、上記の通りです。

繰り上げ受給は年金額が減額され、繰り下げ受給は年金額が増額されますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。

繰り上げ受給とは?

繰り上げ受給とは、本人の希望で、最大60歳まで、1カ月単位で年金の受給開始時期を早めることができる制度です。

繰り上げ受給は、繰り下げ受給と異なり、別々に繰り上げて受給することはできません

早く貰い始めると、その分、貰える金額が少なくなり、具体的には、

  • 繰り上げを1カ月早めるごとに年金額は0.5%ずつダウンし、

その年金額が一生涯支払われます。

例えば、

  • 60歳まで繰り上げた場合は、30%(0.5%×60ヵ月)減の支給額
  • 63歳まで繰り上げた場合は、12%(0.5%×24ヵ月)減の支給額

が一生涯支給されます。

繰り上げの請求後に取消しや修正はできません。

尚、年金法の改正により2022年4月からは、繰り上げを1カ月早めるごとに年金額は0.4%ずつダウンに変更になります、

繰り下げ受給とは?

繰り下げ受給とは、本人の希望で、年金の受給開始時期を66歳から最大70歳まで、1カ月単位で遅らせることができる制度です。

繰り下げ受給は、老齢基礎年金、老齢厚生年金、別々にすることができます

遅く貰い始めると、その分、貰える金額が多くなり、具体的には、

  • 繰り下げを1ヵ月遅くするごとに0.7%づつアップし、

その年金額が一生涯支払われます。

例えば、

  • 70歳まで繰り下げた場合は、42%(0.7%×60ヵ月)増の支給額
  • 68歳まで繰り上げた場合は、25.2%(0.7%×36ヵ月)増の支給額

が一生涯支給されます。

尚、年金法の改正により2022年4月からは75歳まで延長可能になり、75歳まで繰り下げた場合は、84%増の支給額になります。

付加年金にも加入している場合

尚、付加年金にも加入している場合は、付加年金も老齢基礎年金の繰り下げ・繰り上げと同率で増減されます。

年金の「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」はどっちがお得か?

このように、年金は早く貰い始めるとその分、貰う金額が少なくなりますし、遅く貰い始めるとその分、貰う金額が多くなりますので、どちらがお得とは一概には言えません

例えば、60歳からと早めに貰い始めても90歳、100歳と長生きすれば、70歳から貰い始めた人よりも生涯で貰う金額が少なくなってしまいます。

つまり、何歳まで生きるか?で、早めに貰った方がお得か遅めに貰った方がお得か変わってくる仕組みになっています。

では、損益分岐点は何歳でしょうか?

繰り上げ受給と繰り下げ受給別に損益分岐点をまとめています。

繰り上げ受給の損益分岐点

65歳から年間200万円の年金を貰える人を例に、60歳から繰り上げ受給した人と65歳から受給開始した人の年金支給額のシミュレーションをしてみます。

現行の制度では、繰り上げを1カ月早めるごとに年金額は0.5%ずつダウンしますので、5年繰り上げすると、30%(0.5%×60ヵ月)減の支給となります。

年齢 60歳に繰り上げ受給
した場合の年金額合計
65歳から受給した
場合の年金額合計
60歳 140万円
(200万円の30%減)
65歳 840万円 200万円
70歳 1,540万円 1,200万円
75歳 2,240万円 2,200万円
76歳 2,380万円 2,400万円
77歳 2,520万円 2,600万円
78歳 2,660万円 2,800万円
79歳 2,800万円 3,000万円
80歳 2,940万円 3,200万円

すると60歳から貰い始めた人は76歳の時に65歳から貰い始めた人に追い付かれてしまいます。

80歳まで生きたとしたら、65歳から貰い始めた人が260万円も多くなります。

  現行の制度では、60歳に繰り上げ受給した場合の損益分岐点は、76歳

年金制度改正法により繰り上げ受給の減額の幅が0.5%から0.4%へ

年金制度の改正により、2022年4月から年金を繰り上げて受給した場合、減額の幅は現行の1ヵ月に0.5%から月に0.4%になります。

尚、新しい繰り上げの仕組みを使えるのは、1962年4月2日以降生まれの人です。1962年4月1日以前生まれの人は、2022年4月以降に繰り上げ請求しても繰り上げ減額率は、1ヵ月あたり0.5%のままです。

ということで、改正後の率で65歳から年間200万円の年金を貰える人を例に、60歳から繰り上げ受給した人と65歳から受給開始した人の年金支給額のシミュレーションをしてみます。

新しい制度では、繰り上げを1カ月早めるごとに年金額は0.4%ずつダウンしますので、5年繰り上げすると、24%(0.4%×60ヵ月)減の支給となります。

年齢 60歳に繰り上げ受給
した場合の年金額合計
65歳から受給した
場合の年金額合計
60歳 152万円
(200万円の24%減)
65歳 912万円 200万円
70歳 1,672万円 1,200万円
75歳 2,432万円 2,200万円
76歳 2,584万円 2,400万円
77歳 2,736万円 2,600万円
78歳 2,888万円 2,800万円
79歳 3,040万円 3,000万円
80歳 3,192万円 3,200万円

すると60歳から貰い始めた人は80歳の時に65歳から貰い始めた人に追い付かれてしまいます。

  2022年4月以降に60歳に繰り上げ受給した場合の損益分岐点は、80歳

繰り下げ受給の損益分岐点

次に、65歳から年間200万円の年金を貰える人を例に、70歳に繰り下げ受給した人と65歳から受給開始した人の年金支給額のシミュレーションをしてみます。

現行の制度では、繰り下げを1カ月遅らせるごとに年金額は0.7%ずつアップしますので、5年繰り下げすると、42%(0.7%×60ヵ月)増の支給となります。

年齢 65歳から受給した
場合の年金額合計
70歳から繰り下げ受給
した場合の年金額合計
65歳 200万円
70歳 1,200万円 284万円
(200万円の42%増)
75歳 2,200万円 1,704万円
80歳 3,200万円 3,124万円
81歳 3,400万円 3,408万円
82歳 3,600万円 3,692万円
83歳 3,800万円 3,976万円

すると65歳から貰い始めた人は81歳の時に70歳から貰い始めた人に追い付かれてしまいます。

83歳まで生きたとしたら、70歳から貰い始めた人が176万円も多くなります。

  70歳に繰り下げ受給した場合の損益分岐点は、81歳

年金制度改正法により繰り下げできる年齢が75歳まで延長へ

年金制度の改正により、2022年4月から、70歳を迎える人からは、年金を繰り下げできる年齢が75歳まで延長されます。

上記と同じく65歳から年間200万円の年金を貰える人を例に、75歳に繰り下げ受給した人と65歳から受給開始した人の年金支給額のシミュレーションをしてみます。

年金額のアップ率は、従来と変わらず、1カ月遅らせるごとに0.7%ずつアップしますので、繰り下げを75歳まで延長した場合は、84%(0.7%×120ヵ月)増の支給となります。

年齢 65歳から受給した
場合の年金額合計
75歳から繰り下げ受給
した場合の年金額合計
65歳 200万円
70歳 1,200万円
75歳 2,200万円 368万円
(200万円の84%増)
80歳 3,200万円 2,208万円
85歳 4,200万円 4,048万円
86歳 4,400万円 4,416万円
87歳 4,600万円 4,784万円

すると65歳から貰い始めた人は86歳の時に75歳から貰い始めた人に追い付かれてしまいます。

人生100年時代となると75歳から貰い始める方が断然有利になります。

  2022年4月から75歳に繰り下げ受給した場合の損益分岐点は、86歳

損益分岐点は税金や社会保険料を加味すると数年後になる

損益分岐点を出してきましたが、これはあくまで年金支給額です。

厳密には、収入が多ければ、差し引かれる税金や社会保険料も多くなるので、手取りで考えると、多少の誤差が生じます。

平均的な年金額を年間200万円とした場合、現行の制度では、手取り額を考慮すると繰り上げ・繰り下げともに、損益分岐点は、3年~5年ほど後になると考えられます。

年金の繰り上げ受給のメリット・デメリット

まずは、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに年金受給開始年齢が65歳の人の場合の年金の繰り上げ受給についてメリットとデメリットをまとめてみます。

年金の繰り上げ受給のメリット

年金を早く貰い始めることができる

年金の繰り上げ受給の最大のメリットは、年金を早く貰い始めることができることです。

例えば、60歳で定年退職し、その後、仕事をせずに暮らしていきたいが、そのためには貯蓄の取り崩しだけでは足らない、また、60歳以降働いても生活が困窮状態にあるといった場合などには、最大60歳まで繰り上げて年金を受給することができます。

繰り上げ1ヵ月ごとに年金額は0.5%(2022年4月からは0.4%)ずつ減りますが、それでも早くから貰った方が助かる人は少なくありません。

長生きできなかった場合は生涯で受け取れる年金額が多くなる

人生100年時代と言われるように日本人の平均寿命は延びていますが、病気や事故などで平均寿命より早く亡くなってしまう人もいます。

単純な話、例えば70歳で死亡した場合は、65歳から年金を貰い始める人より60歳から年金を貰い始める人が、5年も多く貰える訳で年金のトータル受給額は多くなります。

年金の繰り上げ受給のデメリット

国民年金に任意加入できなくなる

任意加入制度とは、国民年金の未納期間がある場合に、60歳から65歳になるまでに納付月数480ヵ月を上限に、国民年金保険料を納めることで、65歳から受け取る老齢基礎年金を増やすことができる制度です。

しかし、年金を繰り上げ受給するとこの任意加入制度が使えなくなります。

保険料免除や納付猶予を受けた期間の追納もできなくなる

国民年金保険料の追納制度とは、過去に国民年金保険料の免除・納付猶予、学生納付特例の承認を受けた期間の保険料については、後から納付(追納)することにより、老齢基礎年金の年金額を増やすことができる制度です。

しかし、年金を繰り上げ受給するとこの追納制度も使えなくなります。

寡婦年金は貰えなくなる

寡婦年金(かふねんきん)とは、10年以上保険料を払った国民年金の第1号被保険者である夫が年金を受け取る前に亡くなってしまった場合に、一定の条件でその妻が60歳から65歳になるまでの間に年金が支給される制度です。

寡婦年金の金額は夫が本来貰えたはずの老齢基礎年金の4分の3です。

しかし、妻が年金を繰り上げ受給するとこの寡婦年金が貰えなくなります。

また、すでに寡婦年金を貰っている妻が、繰上げ受給をすると、寡婦年金を貰う権利が消滅してしまいますので注意が必要です。

障害基礎年金を受け取れなくなる

障害基礎年金とは、障害を抱えている場合に受給できる年金ですが、年金の繰り上げ請求をした後に障害を負ったとしても、障害基礎年金は受給できなくなります。

老齢基礎年金とともに受け取れる付加年金がある場合は付加年金も同じ率で減額される

老齢基礎年金とともに受け取れる付加年金がある場合は付加年金も同じ率で減額されます。

加給年金は65歳から

厚生年金の加入者には、「生計を維持している配偶者や子ども」がいるときに加算される加給年金という制度があります。

加給年金は、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上あるなどの条件をクリアした上で、老齢厚生年金の受給が始まってから配偶者が65歳に達するまで、又は、子どもが18歳到達年度の末日を迎えるまでの間、受け取ることができる年金です。

繰り上げ受給をした場合、加給年金までを繰り上げて受給することはできません。加給年金は、65歳になってからの受給になります。

年金の繰り下げ受給のメリット・デメリット

次に、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに年金受給開始年齢が65歳の人の場合の年金の繰り下げ受給についてメリットとデメリットをまとめてみます。

年金の繰り下げ受給のメリット

受給できる年金額が増額される

年金の繰り下げ受給のメリットは、受け取り開始時期を後に伸ばした分、増額された年金額が生涯受け取れるという点にあります。

受給開始時期を1ヶ月繰り下げるごとに年金額は、0.7%ずつ増額します。

現在、繰り下げは66歳から最大70歳までとなっていますので、5年間繰り下げて70歳から年金を貰うと、その年金額は65歳で受け取る年金に42%(0.7%×60ヶ月)増額した年金額になります。

この増額率は一生変わりません。

請求時の年齢 年金の増額率
66歳 8.4%
67歳 16.8%
68歳 35.2%
69歳 33.6%
70歳 42%

65歳で貰う年金額(老齢基礎年金+老齢厚生年金)の142%ですからかなりお得な気がします。

考えようによっては、有利な投資ともとらえることができます。

尚、年金制度の改正により、2022年4月から年金を繰り下げできる年齢が75歳まで延長されます。この場合、75歳まで繰り下げると年金の増額率は84%となります。

長生きすると生涯で受け取れる年金額が多くなる

しかし、例えば、万が一、75歳の若さで死亡してしまう場合を考えると、受給期間はたった5年なので、65歳から受給していた方がより多くの年金を受給できていたことになります。

そこで、どれくらい長生きすると繰り下げ受給がお得になるのか、分かりやすく65歳からの年金額を100万円でシミュレーションしてみます。

70歳に繰り下げ受給にした場合
年齢 65歳から受給した
場合の年金額合計
70歳に繰り下げ受給
した場合の年金額合計
差額
65歳 100万円
70歳 600万円 142万円 -458万円
80歳 1,600万円 1,562万円 -32万円
81歳 1,700万円 1,704万円 4万円
82歳 1,800万円 1,846万円 46万円
85歳 2,100万円 2,272万円 172万円

上の表からもわかる通り、受給開始年齢を仮に70歳まで繰り下げた場合は、概ね81歳まで生きれば年金支給金額が65歳からの年金支給額を追い越してしまいます

上の表は100万円で計算していますが年金支給額の平均値に近い200万円だと差は倍になります。

同じく、68歳まで繰り下げ受給をした場合は、概ね79歳まで生きれば受け取る金額が65歳から年金支給額を追い越してしまいます。

厚生労働省が発表した令和元年の簡易生命表によると、60歳の男性の平均余命は23.97歳、女性は29.17歳で、男性は83.97歳、女性は89.17歳まで生きることが想定されます。

つまり、現在60歳の人が、65歳を過ぎても生活費に余裕がある状態ならば、繰り下げ受給を選択することで65歳から受給するよりも多い年金額を受給できる確率が高くなります。

人生100年と言われ、今後は医療も発達してきますので、それらを考えると現行の制度では、受給を繰り下げた方が受け取る年金額の総額は多くなる可能性が高そうです。

付加年金がある場合は付加年金も同じ率で減額される

老齢基礎年金とともに受け取れる付加年金がある場合は付加年金も同じ率で増額されます。

手取り額で比較すれば損益分岐点は少し後になる

但し、これはあくまで支給額ベースで計算した結果です。

年金からは、税金や社会保険料(国民健康保険料、介護保険料)が差し引かれるため、厳密に言えば、手取りベースで考えると損益分岐点はもう少し後になると思われます。

この場合、現状の制度では、平均的な年金を貰える男性でいえば、70歳に繰り上げした場合の損益分岐点は84歳前後となると考えられますので、繰り下げ受給は微妙な選択となります。

これは、現在、繰り下げ受給をしている人の割合は、全体の2%程度しかいないという原因の一つかもしれません。

繰り下げ請求はいざと言う時は5年遡って受給できる

年金の請求には5年の時効があります。

従って、繰り下げ受給を予定していても、いざと言う時は、65歳まで5年分さかのぼって一括請求することができます。

例えば、70歳まで繰り下げていたにも関わらず、病気などで68歳で生活資金が枯渇しそうになったら、65歳からの約3年分の年金を一括で受け取ることができます。

年金の増額率は0%になりますが、いざという時は、5年分さかのぼって一括請求できますので70歳まで繰り下げるという選択もしやすくなります。

勿論、その時点(68歳時点)の増額率で繰り下げ受給を開始することもできます。

繰り下げ支給で待機している時に死亡した場合は未支給年金を請求することができる

繰り下げ受給待機時に本人が死亡した場合、その配偶者や子など3親等内の親族は未支給年金を請求することができます。

繰り下げ受給で70歳から年金を貰うはずだった者が68歳で死亡したとすれば、65歳時点で貰うはずだった本来の年金額で計算した金額で、死亡するまでの年金がまとめて支給されます。

例えば、65歳時点で貰うはずだった本来の年金額が老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて年間200万円だったとすれば、68歳までの3年分600万円が請求できます。

しかし、一度でも年金を受給してしまったり、本人が繰り下げ受給開始の申請をしていたりすると未支給年金を請求する権利は無くなります。

年金の繰り下げ受給のデメリット

次に、年金の繰り下げ受給のデメリットをまとめてみます。

亡くなる年齢によっては貰い損も

上記のシミュレーションでもわかる通り、年金の繰り下げ受給は年金を貰い始めて一定の年齢に達する前に亡くなると、当然、貰う年金額は少なくなります

年金なしの期間をやりくりして資産が目減りすることも

資金に余裕のある方や働いている方は問題ないかもしれませんが、例えば、最長70歳まで繰り下げると65歳から5年間は、年金なしで生活しなければならなくなります。

他に収入がなければ貯蓄の取り崩しになりますので、早期に死亡した場合は、残される資産(相続財産)に影響が出てきます。

例えば、65歳時点の資産が2,000万円ある場合、71歳で年金を受給しはじめてすぐに死亡した場合は、残された財産が500万円といったことも。

65歳から年金を受給していれば、2,000万円まるまる残してあげられたかもしれません。

特に、配偶者がいる方は、残された配偶者の生活にかかわってきますので、こういったことを考慮した上で、年金の繰り下げ受給を検討する必要があります。

繰り下げている間は加給年金を受け取ることはできない

老齢厚生年金を繰り下げて受給している間は加給年金を受け取ることはできません

加給年金は、配偶者が65歳になるまで年間40万円ほどの年金がプラスされて支給される制度なので、繰り下げ受給をするかどうか重要な要素です。

年金支給額の増額で税負担も増加

最長70歳まで繰り下げると年金の支給額が42%増額されることはメリットとして記載したとおりですが、年金支給額が一定金額を超える場合は所得税、住民税、国民健康保険料の負担が増えることになります。

従って、実質的な支給額(手取り)の増額は一般的に42%に満たないことになります。

遺族年金は増額されず65歳の年金額で計算される

勘違いしている人が多いのが、遺族年金です。

年金受給者が亡くなったときに家族に支給される遺族年金は、夫が65歳時点で貰うはずだった本来の年金額をもとに計算されます

繰り下げ受給で年金受給額が増えたからと言って遺族年金が増えることはありません

繰り下げ受給しようと待機していて途中で死亡した場合も遺族年金は65歳時点で貰うはずだった本来の金額で決まります。

尚、これは、繰り上げ受給の時も同じことが言えます。年金受給者が亡くなったときに家族に支給される遺族年金は、繰り上げ受給で減ることはありません

そして、待機中の分も本来の金額で計算して、65歳から亡くなった月までの全期間分を未支給年金として請求できます。

65歳以降も働き続けると未支給年金が少なくなる場合も

年金支給開始年齢の65歳になっても働き続けて高収入を得ている場合、給与や賞与と年金額の合計が一定の基準を上回ると、その額に応じて老齢厚生年金が停止される制度があります(老齢基礎年金は全額支給)。

この場合、繰り下げで増額されるのは支給停止されなかった部分だけとなります。

例えば、65歳受給の老齢基礎年金が78万円で老齢厚生年金が240万円(月額20万円)だった場合に、65歳から68歳まで3年間働いて、その時の総報酬月額相当額が40万円だった場合、

老齢厚生年金の月額20万円と総報酬月額相当額の40万円の合計額が47万円を超えている分について支給停止となり、未支給年金額の請求額が少なくなります。

支給停止額=(老齢厚生年金月額20万円+総報酬月額相当額40万円-47万円)× 1/2 × 12月分 = 78万円

従って、この場合の老齢厚生年金額は、本来240万円だったものが、78万円差し引かれて、162万円となり、未支給年金額は、

  1. 老齢基礎年金:78万円 × 3年分 = 234万円
  2. 老齢厚生年金:162万円 × 3年分 = 486万円
  3. 未支給年金額 = 720万円

となります。

まとめ

年金の「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」はどっちがお得か?また、それぞれのメリットとデメリットはどういうものがあるか?について、2022年の年金制度の改正を踏まえ具体的にシミュレーションをしながら解説してきました。

「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」、65歳から貰い始める人と比較しての損益分岐点は、

  1. 60歳に繰り上げ受給した場合は、76歳
  2. 2022年4月から60歳に繰り上げ受給した場合は、80歳
  3. 70歳に繰り下げ受給した場合は、81歳
  4. 2022年4月から75歳に繰り下げ受給した場合は、86歳

です。

繰り上げ受給した場合は、損益分岐点の年齢になると65歳から貰い始めた方がお得になり、繰り下げ受給した場合は、損益分岐点の年齢になると65歳から貰い始めた方よりお得になります。

但し、厳密には、収入が多ければ、差し引かれる税金や社会保険料も多くなるので、手取りで考えると、年金支給額によって多少の誤差が生じます。

それぞれのメリット、デメリットは以下の通りです。

繰り上げ受給

繰り上げ受給は、年金を早く貰い始めることができるというメリットがある反面、受給額が少なくなるので、一定の年齢より長生きした場合は、65歳から貰い始める人と比較して、一生涯に貰う年金額は少なくなるというデメリットがあります。

また、

  1. 国民年金に任意加入できなくなる
  2. 保険料免除や納付猶予を受けた期間の追納もできなくなる
  3. 第1号被保険者の妻が繰り上げ受給すると寡婦年金は貰えなくなる
  4. 障害基礎年金を受け取れなくなる
  5. 老齢基礎年金とともに受け取れる付加年金がある場合は付加年金も同じ率で減額される

といったデメリットもあります。

繰り下げ受給

また、繰り下げ受給は、年金を貰い始める年齢が遅くなるデメリットがある反面、受給額が多くなるので、一定の年齢より長生きした場合は、65歳から貰い始める人と比較して、一生涯に貰う年金額が多くなるというメリットがあります。

また、老齢基礎年金とともに受け取れる付加年金がある場合は付加年金も同じ率で増額されます。

一方で、

  1. 年金なしの期間をやりくりして資産が目減りすることもある
  2. 繰り下げている間は加給年金を受け取ることはできない
  3. 年金支給額の増額で税負担も増加
  4. 遺族年金は増額されず65歳の年金額で計算される
  5. 65歳以降も働き続けると未支給年金が少なくなる場合もある

といったデメリットもあります。

繰り下げ受給は、早く死んでしまえば貰い損になりますが、現代は、人生100年と言われる時代です。長生きリスクを加味して、できるだけ繰り下げ受給をする方がお得かもしれません。